【あおもりびと発見@青森】もう一度この服を着たいから/ナチュラルクリーニングone more
弘前ドライクリーニング社 副社長 久保栄一郎さん(弘前市出身、在住)
弘前ドライクリーニング社が始めた石けんと水で洗う天然素材のクリーニングが話題になっている。仕掛け人は副社長の久保栄一郎さん(31)。2019年にナチュラルクリーニング「one more(ワンモア)」を始めたところ、「これまで落ちなかった汚れが落ちた」「思い出があって捨てられなかった服がよみがえった」と利用者の大きな反響を呼んだ。
好評を受けて全国からネットで受注する宅配サービスを企画した。新事業を始めるためのクラウドファンディングを募ったところ、全国から支援が殺到。目標額の889%を達成し、テレビ、新聞にも取り上げられた。
高度経済成長とともに
弘前ドライクリーニング社は1948年創業。在府町の木村産業研究所(現・弘前こぎん研究所)の一角で染色やクリーニングをする会社だった。高度経済成長期、クリーニングの需要は右肩上がりだった。
しかし日本の経済成長は止まる。消費者はファストファッションで低価格の衣服を買い、すぐに捨ててしまう。上質な服をクリーニングして着続けるゆとりは失われていった。
ドライクリーニングを社名に掲げる会社が、なぜ「水で洗う」クリーニングを始めたのか。
「クリーニング業界って自己肯定感が低いんですよ。どうがんばっても新品にはなれない。ゼロにどこまで近づけるかという減点法の世界なんです」と久保さんは語る。
生まれた時から三代目と言われながら育った。大学は県外へ進学。在学中に創業者である祖父が亡くなった。葬儀場から溢れるばかりの人々を見て、そのつながりを受け継ぐことを決心した。
子どもの誕生が契機に
「業界側の問題もあった」と久保さんは語る。ドライクリーニングには石油系の強い溶剤を使う。従業員は健康診断で内臓のチェックを受けるほどだ。安く早くを競う中で品質を落とす店も多い。知人から「クリーニングに出すと服に臭いが付くから、自宅で洗える服しか買わなくなった」と言われたこともある。
転機は久保さんのパートナーである佑香さんが妊娠した時だった。横浜の義母から、かつて佑香さんが着たベビードレスのクリーニングを頼まれた。
生まれてくる子の肌に強い溶剤のクリーニングは大丈夫なのだろうか?
その迷いがきっかけとなって、肌にも環境にもやさしいクリーニングの模索をはじめた。
2019年秋、天然の石けんと水で洗う「one more」をリリース。この名には「もう一度、この服を着たい」との思いがこめられている。クラウドファンディングにあたり、SNSでサービスの開発ストーリーやこだわりのポイントをこまめに発信した結果、支援者の半分以上が久保さんを知らない初見の人たちだった。
今、one moreの成果を見て衣類の作り手からの問い合わせもある。
「長く着られる服を作る人とそれを選んで着る人、その関係をone moreがつなげられるようになりたいですね」。そう語る久保さんの表情は明るい。
(ブロガー・斎藤美佳子)
関連リンク
one more https://onemore-cleaning.com/
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