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【あおもりびと発見!】廃校に再び子供の声を 荒馬の里資料館・嶋中卓爾館長

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はっぴ姿で出迎えてくれた嶋中館長

2016年3月26日、青森県今別町に北海道新幹線の「奥津軽いまべつ駅」が開業。その開業に合わせ、駅から約3キロほどの大川平集落に、「荒馬(あらま)の里資料館」が本格オープンしました。

 

「荒馬(あらま)」とは、今別町に藩政時代から伝わる郷土芸能です。馬役の男性と、手綱取り役の女性がペアになって躍動する踊りで、町には「今別荒馬」「大川平荒馬」と、昨年に復活を遂げた「二股荒馬」の3種類が伝わっています。

 

資料館は、廃校になった旧大川平小学校を利用して、2004年オープン。その後、少しずつ施設を充実させ、新駅開業を機に、冬期間を除く4月~10月の毎日開館に踏み切りました。館内には「大川平荒馬」の映像が流れ、太鼓や衣装なども展示。地域の子供たちが遊びに来れるように、プレイルームも整備しています。「開業後も少しずつ施設を整備して、毎日少しずつ、お客さんが来てくれるようになった。開業効果だね」。館長の嶋中卓爾さんが力強くうなずきます。

 

消えかけた荒馬の灯

しかし自慢の「大川平荒馬」は、存続の危機に瀕した時期がありました。人口減少が進む青森県内でも、今別町は最も減少が著しい地域。大きな産業のない町からは、祭りの担い手である若者たちが職を求めて次々に流出。「荒馬をもうやめようか」。そんな言葉が保存会の会員から漏れ始めた2000年夏、転機が突然訪れました。立命館大学の郷土芸能サークル「和太鼓ドン」の6人が「荒馬を習いたい」と、今別町を訪ねてきたのでした。

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男女ペアで激しく踊る大川平荒馬

「来年もまた」と去っていった学生たち。地元の人たちは半信半疑でしたが、翌年も、その翌年も学生たちはやって来ました。しかも人数が増え、大学も立命館だけにとどまらず、他大学へと広がりを見せていきます。

 

大川平荒馬保存会では困惑が広がります。「自分たちが守ってきた伝統が損なわれるのではないか」。しかし、まじめに伝統を受け継ぎ、祭りを支えるために毎年来てくれる学生たちに、やがて住民たちもほだされて、世話を焼き始めました。今では毎年60~70人の学生が、祭りのある8月に「ただいま!」と訪れ、地元は「おかえり!」と迎えています。

 

「祭りを支えてくれる学生には感謝しかない。この交流は町の宝物だ」と語る嶋中館長。館内には学生から届く手紙や写真が展示され、中には大川平に来たことがきっかけで生まれたカップルの結婚報告も10数件あるといいます。

 

もう一度、地域の拠り所に

奥津軽いまべつ駅の開業と、それに伴う資料館の整備、そして長く続いてきた学生たちとの交流によって、再びこの旧大川平小学校が地域の拠り所となり始めました。嶋中館長は何よりもそのことを喜んでいます。「小学校が廃校になった時、何とかここを残そうと資料館にした。新幹線開業で、地元の人にもその活動が認知され、立ち寄って応援してくれるようになった。そして時間はかかったが、子供の声、若者の声がここに帰って来た」。

 

かつて、荒馬がきっかけで訪れた学生が「ここに住みたい」と居ついたことがあるそうです。しかし仕事がなく、結局は県外の実家に帰っていきました。嶋中館長はそのことを振り返り、「あの時に新幹線があれば、青森や函館で仕事を見つけて通勤できたと思う。これからはそういう時代。荒馬をきっかけに、人に来てもらい、そしてまた地域の拠り所として機能させたい」と意気込んでいます。

 


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廃校を利用した荒馬の里資料館

☆資料館データ☆
荒馬の里資料館
住所:今別町大川平熊沢67
営業: 10:00 ~ 15:00 (食事処「荒馬」 11:00 ~ 14:00)
問合せ:090-4311-4314

開館日 4/1 ~ 10/30 毎日
※ 11/1 ~ 3/31までは冬季閉館ですが開館希望の際は施設までご連絡お願いいたします。

 

(編集部S)

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