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【ココイコあおもり】あおもり再発見の旅⑤フランスみたいな弘前で建築巡り

東京生活が長い筆者・大川(八戸市出身)が、青森県内の魅力を再発見しようと出掛けた旅のレポート。締めくくりは弘前です。

弘前は何度訪れても飽きない、乙女なココロをくすぐる町。

しっとりと静かな時間が流れる城下町に洋館や教会が点在。大正時代から珈琲を飲む文化があるだけに、町の人が親しむ古くからの喫茶店がたくさん。“和”の中にフランスのようなエスプリが効いていてなんだかオシャレ。

町中にりんごが溢れているのもたまらない。喫茶店やパティスリーごとにりんごたっぷりアップルパイが展開されているし、中心地から少し歩くだけで美しいりんご畑が広がるのも、テンションが上がります。

 

津軽こぎん刺し、あけび細工などの伝統工芸品や青森のブナを使った木工品のクラフトも充実。弘前は女性にとって、どこをどう切り取っても、胸がきゅんきゅんする町だと思います。そんな魅力いっぱいすぎる弘前では、テーマを設けて巡るのがオススメ。今回は注目度が高まる「前川國男建築」をひとつのテーマにしました。

 

「前川國男」が注目されています

 

前川國男(1905~1986、新潟市出身)はフランスにて近代建築の巨匠ル・コルビュジエに師事し、戦前、戦後と日本近代建築に大きく貢献した日本モダニズムの旗手といわれる建築家です。

東京・上野にある国立西洋美術館が世界遺産に登録されたことで設計者であるル・コルビュジエとその影響を受けて発展した日本近代建築に関心が高まっており、東京では「ル・コルビュジエと前川國男」展が、江戸東京たてもの園(東京・小金井市)、上野の東京都美術館、東京文化会館で開催されています(~9月10日)。

 

町全体が“生きた前川國男の博物館”

 

その“前川國男建築”がいっぱいの弘前は、町自体が“生きた前川國男の博物館”と言われています。

 

前川國男建築群マップ(弘前観光コンベンション協会作成)

 

前川國男の母が弘前藩の名門の出であったことが縁で、1932年竣工の木村産業研究所に始まり、弘前中央高校講堂(1954)、弘前市庁舎本館(1958)、弘前市民会館(1964)、弘前市立病院(1971)、弘前市立博物館(1976)、弘前市緑の相談所(1980) 、弘前市斎場(1983)など、生涯を通して弘前市内に計8つの建築物を設計。公共施設が多いことからどれも市民に溶け込み、そして今も市民が日々利用しているところが近代建築ファンには魅力的なのです。

 

弘前こぎん研究所は建物もたいせつ

 

大学卒業後の1928~30年に大戦間のフランスに渡り、帰国後の2年後に27歳で手がけた「木村産業所」は彼の処女作。フランスからの帰途の船中で、木村産業研究所の木村隆三氏に依頼されて実現したもので、モダニズムのデザインが随所に施された貴重な建物です。

武家屋敷の風情を残す落ち着いた住宅街に建つ白い洋風の建物は、今も目を引きます。戦前である1932年当時は、弘前城下の黒塀に囲まれた立派な武家屋敷が並ぶ中で、さぞかし映えたことでしょう。

 

白い壁に「前川カラー」と呼ばれる赤のコントラストが美しいエントランスの天井、白い壁にも映える黒い鉄柵のラインや横長の窓。一つ一つが芸術のようですがこれはモダニズム建築の特徴でもあるそう。一階の貴賓室の緩やかなカーブとフレンチブルーの窓縁、入口の青いタイルやクリスタルなドアノブなどはちょっとメルヘンチック。

 

弘前の地場産業を残し伝えることを目的として建てられた木村産業研究所は、かつてダンスホールや文化サロン的な場でもあったようで、空間から当時の様子が想像できます。今はこぎん刺しを守り伝える「弘前こぎん研究所」が入っていることもあり、建物の中は今も独特の時間が流れ、時が止まったような不思議な気持ちになります。

2階には「建築家・前川國男プチ博物館」。前川國男と弘前の繋がりが建築パネル、模型、年表で詳しく説明されています。建築巡りのはじめに、ここで学ぶのが良さそう。

 

市民がうらやましい!美しすぎる弘前市民会館

前川建築の中でも個人的に感動したのが、弘前公園内に佇む「弘前市民会館」。

気軽に入れる管理棟はしっとりとおしゃれ

 

建築のことを知らない人でも目を引く外観。周りの緑と溶け込み、大ホールと管理棟を結ぶポーチが美しいです。楽屋入口の赤のドアはアーティスティック。そして管理棟の中は、弘前出身の洋画家・佐野ぬい氏のステンドグラスと相まって、ここも違う国に行ったような神秘的空間で、しばらくゆっくりしたくなります。喫茶室「baton」でお茶をしている人が素敵に見えます。

楽屋入り口はどこか外国みたいな風景

 

さらにメインの大ホールは圧巻。前川カラーが色とりどりに配色され、ガラス窓も大きく開放感いっぱい。2階のホワイエに誘導する階段はこれからはじまる芸術の世界に誘導してくれるよう。

 

ホワイエを見上げれば、銅管のシャンデリア。開館当時からあるさりげないライトや、改修時に取り入れた津軽塗のドアノブなどさりげないインテリアがいちいちおしゃれで、高揚感が増します。

 

約1300名収容の大ホールは圧巻(見学は要事前予約)。地方都市にしては相当のスケールで、棟方志功原画の緞帳も映えます。

 

音響もとても良さそうなのがわかります。実際、演奏者からは「落ち着く、またここで演奏したい」との声がよく聞かれるそう。

ここで音楽を聴いてみたい。こんなところで音楽を聴けたりお芝居を観ることができる弘前市民がうらやましいです。弘前の方にとっては気が付けば当たり前に使ってきた身近すぎるものだと思いますが、今、その貴重さが全国的に増しています。

生前、前川さんは「弘前は母の郷里なのでしっかりした仕事をしないといけない」と弟子に語っていたそう。1958年の弘前市庁舎建設の際は、当時の市長であった藤森睿氏が上京し、すでに日本のモダニズムを牽引していた前川國男に直談判したそうです。

先人たちの愛がこもった建物だからこそ、今も残っている。これからも大切に、誇りにしていきたいですよね。

(大川朝子)

■「ル・コルビュジエと前川國男」展(東京)
http://www.tatemonoen.jp/special/2017/170530.php

■弘前こぎん研究所
住所:弘前市在府町61
http://tsugaru-kogin.jp/

■弘前市民会館
住所:弘前市大字下白銀町1番地6
http://www.city.hirosaki.aomori.jp/shiminkaikan/
※大ホール観覧は事前要予約

■前川国男建築物パンフレット(PDF)
http://www.hirosaki-kanko.or.jp/mediafile/pdf/CNT00409291541255543_4_pdf.pdf

本文ここまで
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